イラン情勢下の金価格動向:2026年前半の振り返り

2026年上半期が終わりに近づく中、世界市場を印象づけた混乱とボラティリティを振り返る投資家にとって、2月の米-イラン間の軍事衝突勃発以降における金(ゴールド)の相場低迷は、とりわけ意外な異常事態と映るかもしれません。金の価格変動要因について一般的な理解を持つ多くの投資家にとって、この、いわゆる「安全資産」が、史上最大級のエネルギー市場の混乱とも評される事態の最中に、有意な防御機能を発揮できなかったことは、腑に落ちない話に思えるでしょう。

本レポートでは、金は実際にはおおむね予想どおりの値動きをしており、直近の相場低迷にはいくつかの合理的な要因があることを論じます。また、市場の他の分野でモメンタム戦略が揺らぎ始め、構造的な追い風が再び優勢になりつつある中、現在の環境が金への再エントリーないし買い増しにとって魅力的な機会となり得る理由についても解説します。

重要なポイント

  • イラン紛争下における金価格の伸び悩みは、複数の要因が重なった結果と説明できます。具体的には、価格がすでに高値圏からスタートしていたこと、米国債利回りの上昇、リスク資産(株式など)が堅調に推移する中で、安全資産としての金への需要が高まらなかったこと、が挙げられます。
  • 短期的な逆風は存在するものの、長期的な構造的トレンドは依然として強固です。各国中央銀行による金の購入や、アジア地域における金ETFへの資金流入の増加といった要因がこれを支えています。
  • 特筆すべき点は、金価格の最近の値動き、特に株式市場との相関性の高さは、歴史的に見て異例な現象であるということです。過去のデータを振り返ると、このような局面の後には、金が比較的良好なパフォーマンスを示す傾向が確認されています。

潮目が変わる時

豪州最大級の金ファンド1の運用者であるGlobal X Australiaに対して、2026年4~6月期に最も多く寄せられた質問は、「なぜイラン紛争下で金は期待どおりのパフォーマンスを示さなかったのか」というものでした。

これはごもっともな疑問です。多くの投資家にとって、金は「安全資産」として知られ、伝統的資産が圧迫される局面や地政学的緊張が高まる局面において、金は他の資産を上回るか、少なくとも価格を維持することが期待されています。しかしながら、この見方はあまりに単純化されたものだとGlobal X Australiaでは考えています。最近の金価格を正しく理解するには、より広い市場環境を踏まえて考察する必要があります。

また、Global X Australiaの見解では、2026年4~6月期における金の期待外れのパフォーマンスは、主に3つの要因に起因すると考えられます。

1. 高く上昇すればするほど…

最も直感的に理解しやすい第一の要因は、2026年1~3月期後半の売り急落前における金価格の「出発点」の高さです。2月末時点で、金の過去12か月間のリターンは80%を超えており、あらゆる市場の中でもトップクラスのパフォーマンスを記録する資産となっていました。これにより、自然と利益確定売りの対象となっていたのです2。ボラティリティも同様に上昇し、金は過去10年余りで最大級の日次変動を記録する場面が複数見られました3。こうした過熱感は金融市場の外にも表れ、シドニーでは個人投資家の関心の高まりを受け、地金商の店頭に並ぶ行列は街角を曲がるほどの長さになっていました。

この期間を通じて、プロの投資家たちは、目前に迫った価格調整をあらかじめ見越していたようです。金価格が2月中のほとんどの期間で1オンス5,000米ドル(約81万円)を上回って推移していたにもかかわらず、投機筋(マネージド・マネー)のポジションは2月上旬に約40,000枚減少しました。

イラン紛争に起因する不透明感が市場に波及した頃には、金価格の上昇相場は、個人投資家の投機的な動きへの依存度をますます強めていました。市場の流動性が低下し、機関投資家からの下支えが薄れていく中で、急激な価格調整と値動きの正常化が生じる可能性は、次第に高まっていたと言えるでしょう。

2. 原油・インフレ・利回り

第二に、イラン紛争は現代史上おそらく最もエネルギーを中心とした軍事衝突であり、世界の原油・天然ガス輸出量の20%超がリスクに晒される事態となりました。

金にとって、これは一見すると追い風のように見えるかもしれません。原油価格とインフレの直接的な関連性、そして金が長年「インフレヘッジ」としての評価を得てきたことを踏まえればなおさらです。しかしながら、インフレ期待の高まりは、市場に金融引き締めをより強く織り込ませる要因ともなり得ます。また、金は利回りとの間に、長年にわたり強い逆相関関係を持ってきました。そのため、イラン紛争の期間を通じて金利が過去12か月で最高水準まで上昇すると、利息を生まない資産である金には自然と売り圧力がかかり、2026年1~3月期から始まった下落に拍車をかける結果となりました。

では、なぜ原油価格が最近下落しているにもかかわらず、金が低迷したままなのでしょうか。根強いインフレ、市場予想を上回る強い労働市場、そしてタカ派的と受け止められたFRB(米連邦準備制度理事会)の姿勢により、市場は年初に織り込んでいた利下げ観測を後退させることとなりました。この見直しの結果、米国債利回りは7月上旬時点で年初来の高水準付近にとどまっており、金はより緩やかな利下げ路線がもたらしたであろう追い風を失った状況が続いています。

3. 安全資産への需要が限定的だった

最後に、イラン紛争のさなかに地政学的なボラティリティが高まったものの、市場はこの紛争を「システム全体の破綻」につながる脅威とは見なしませんでした。むしろ、特に半導体業界を中心に、「業績の確実性」が明確に確保された領域が存在し続けました。その結果、不確実性が過去10年で最高水準に達したにもかかわらず、投資家のリスク選好姿勢(リスクオン)は揺るぎませんでした。

このことは、上記チャートに最もよく表れています。このチャートは、テクノロジー株や半導体株を含む高ベータの景気敏感株をロング(買い建て)し、伝統的なディフェンシブセクターをショート(売り建て)するカスタム指数の、3か月ローリング・リターンの推移を示したものです。このチャートからは、2026年上半期が明確に「リスクオン」の局面であったことが読み取れます。これが、金の安全資産としての価値に対する需要を抑制し、投資家の資金をより高い成長が見込める資産へと向かわせました。

以上、3つの要因を総合すると、上半期は複数の観点から金にとって厳しい環境であったと言えます。そのパフォーマンスの低迷にも、十分な理由があったと理解できるでしょう。

投資妙味は依然として健在か?

前述のとおり、原油価格、インフレ、そしてそれに伴う金利上昇が金にとっての逆風として論じられてきました。しかし、金利上昇局面にあったにもかかわらず、金は2024年・2025年の両年ともにパフォーマンスで他資産を上回っていたことを忘れてはなりません。これを支えたのが、中央銀行やアジアの投資家といった非伝統的な買い手による追加需要です。こうした需要の拡大により、金価格を左右する主導役は、金利変動に敏感な欧米のETF投資家から、より構造的な買い手へと移りつつあります。

この点を踏まえると、2026年下半期に向けて金投資家にとっての本質的な問いは、必ずしも地政学リスクや金利の先行きではなく、こうした買い手たちが再び市場に戻り、価格を左右する主要な牽引役として復活するかどうかです。Global X Australiaでは、その可能性が高いと考えています。

中央銀行需要は回復へ

中央銀行の需要は、今後数年間における金の投資妙味を支える、おそらく最も重要な柱です。しかしながら、2026年4~6月期において、投資家の間ではこの買い増しトレンドの持続可能性に疑問の声が上がり始めました。金価格は下落し、米ドルは上昇、そして多くの中央銀行が様子見の姿勢を維持しており、これは2025年からの明確な転換を示しています。2026年上半期において中央銀行による購入が確かに減速したことは認めるものの、この鈍化は文脈を踏まえて理解する必要があります。

大半の中央銀行にとっての優先事項は、物価の安定を維持し、経済・金融の安定を下支えすることにあります。イラン紛争のような不確実性が高まる局面では、エネルギー危機が生じた場合の影響を抑え込むために十分な流動性を確保することが、より差し迫った優先課題となる一方、長期的な戦略的資産配分(すなわち、米ドル資産からの分散)は後回しにされる傾向があります。

しかしながら、エネルギー市場が正常化するにつれ、2022年から2025年にかけて金の買い増しを後押しした「脱ドル化」の動きは、再び、それもこれまで以上に強い勢いで台頭してくるとGlobal X Australiaでは考えています。直感的に見ても、イラン紛争は、米国が金融力・軍事力の双方の行使においてますます強硬な姿勢をとるようになったことを、国際社会に対してあらためて裏付けるものとなりました。現政権が世界の分断と脱グローバル化を加速させる中、各国政府にとって、米ドル資産からの分散や、ドルへの戦略的依存の低減を進めるインセンティブは、一層強まるばかりでしょう。

こうした見立ては、ワールド・ゴールド・カウンシルが最近実施した、世界各国の中央銀行関係者を対象とする調査結果によっても裏付けられています。この調査は、今後5年間における資産配分の見通しについて尋ねたものです。回答者の80%以上が、この期間において中央銀行の金準備が増加すると見込んでおり、足元の減速は「終止符」ではなく、あくまで「一時的な区切り」に過ぎないとの見方を裏付けています。同時に、回答者のほぼ4分の3が、世界の外貨準備に占める米ドルの比率が低下すると見込んでいます。

これらの結果を総合すると、脱ドル化のトレンドが今後も継続することが示唆されており、金はその主な受益資産の一つとして位置づけられると言えるでしょう。

アジアのETF投資家が示す底堅さ

2025年後半、Global X Australiaではアジアの金ETFを、金投資の世界における意外かつ影響力を増しつつある新たな参入者として位置づけました。その後もこの流れは市場予想を上回る形で続いており、イラン紛争の期間中も資金流入は底堅く推移しました。足元では流出に転じているものの、その規模は限定的です。2026年前半のアジアの金ETFへの資金流入額は、前年同期比で11%増加しました4

こうした裾野の広がりを示す最も明確な証拠と言えるのが、最近、現物の金を裏付けとするETF(華安易富黄金ETF)が、CSI300(中国版S&P500に相当)に連動する主要ETFを上回り、中国本土においてあらゆる種類のETFの中で最大規模となったことです5。Global X Australiaの見解では、この節目の持つ重要性は単なる統計上の出来事にとどまりません。これは、中国の投資家の金に対する認識の変化、つまりは、単なる貴金属や宝飾品としての位置づけから、金融資産、そして分散ポートフォリオにおける戦略的な構成要素へと移行していることを反映しています。

このような金の資産配分に対する枠組みの変化は、当面の間、持続的な追い風となる可能性があるとGlobal X Australiaでは考えています。また、アジアの投資家は、目標とするポートフォリオ配分に向けて段階的にポジションを積み上げていく傾向があり、より戦術的な投資行動が中心となる欧米の資金フローと比べて、長期的な投資規律を維持する可能性があります。この傾向は、金が最近大幅な価格調整に見舞われたにもかかわらず、アジアの金ETFからの資金流出が比較的小幅にとどまっている点にも表れています。

2025年7~9月期から2026年1~3月期までの3四半期間で、アジアの金ETFには約287億米ドル(約4.7兆円)の資金が流入しました。これに対し、2026年第2四半期の資金流出は16億米ドル(約2,600億円)にとどまり、過去12か月間における累積純流入額は約271億米ドル(約4.4兆円)となっています。

歴史からの示唆

ここまで金のパフォーマンスを振り返ってきましたが、最後に金の他の資産、特に株式に対する相対的なパフォーマンスが極めて異例の動きとなっている点にも触れておきたいと思います。7月上旬時点で、金のグローバル株式との90日ローリング相関係数は0.74に達しており、これはブレトンウッズ体制崩壊後、金が自由市場での取引を再開して以来、最も高い水準となっています。

過去50年間において、金と株式の90日相関係数が0.6を上回った局面はわずか5回しかなく、その平均継続期間はたった27日間でした6。では、この異例な関係性を引き起こしている要因は何でしょうか。

これまで述べてきたファンダメンタルズ的な価格変動要因に加えて、Global X Australiaでは、金と株式の相関が高まる局面は、相反する投資哲学が一時的にせめぎ合う局面として捉えるのが適切だと考えています。一方では、世界経済の健全性や金融の安定性に対する信認の低下が表れており、他方では、成長の持続性やレジリエンス(耐性)に対する信頼が反映されています。金と株式が長期間にわたって連動して動くことが稀なのは、こうした見方が本質的に相反するものだからです。

これを踏まえ、Global X Australiaは短期から中期的に金と株式の連動が解消(デカップリング)されると予想しています。これは、次の2つの結果のいずれかを意味します。すなわち、金が株式のパフォーマンスを上回るか、あるいは株式が金のパフォーマンスを上回るか、のいずれかです。

過去の分析では、こうした見方の衝突局面において、金の投資家がより多くの場合で優位に立ってきたことが示されています。過去50年間において、相関係数が0.6を上回った局面の後、90日間で金は株式のパフォーマンスを平均6.5%上回ってきました。もちろん、過去の実績が将来の成果を保証するものではありませんが、歴史は完全に繰り返すことはなくとも、しばしば「韻を踏む」ものです。

結論:引き潮から満ち潮へ

2026年上半期の金市場は、強気の見方を持つ投資家にとってもその確信が試される局面となりました。しかし、確信と価格が足並みを揃えて動くことは、めったにありません。一見すると「投資テーマの崩壊」のように見えた事象も、詳しく検証すれば、逆風に対する典型的な反応であり、その逆風の大部分は一時的なものに過ぎませんでした。

表面的な動きの裏側では、2024年から2025年にかけて金を押し上げてきた構造的な潮流—すなわち、中央銀行による分散化の動きと、成熟しつつあるアジアの投資家層—は、依然として力強く動き続けています。歴史もまた、一定の安心材料を提供してくれています。市場心理がいつ転換するかを正確に見極めることはできませんし、過去の実績が将来を保証するものでもありません。しかし、過熱感が一巡し、ファンダメンタルズが損なわれていない今、潮目はすでに変わり始めている可能性があります。

関連ETF

関連商品へのリンク先はこちら:

424A – グローバルX ゴールド ETF(為替ヘッジあり)

425A – グローバルX ゴールド ETF

AUAU – グローバルX 金ビジネス ETF