ビデオゲームとeスポーツの繁栄を主導する4つの企業

ステイホームの要請がある中で業績を上げたのはビデオゲームとeスポーツ業界です。政府のロックダウン命令に従う世界中の消費者は、娯楽を求めるとともに自宅でくつろぎながら社会的な交流ができる機会への関心を高めています。しかし、この動きはCOVID-19だけがもたらしたものではありません。この業界がメインストリームに浮上する流れはCOVID-19の流行拡大以前から進行していました。 当社はこの流れがCOVID-19以後も続くと考えています。

こうした変化の速いテーマを捉えやすくするために、今回はビデオゲーム・eスポーツ業界の重要なセグメントを代表する4つの企業を取り上げます。

  1. Activision Blizzard:ヒット作を生み出し続けるビデオゲーム開発・販売業界のリーダー
  2. Huya:中国を主導するストリーミングプラットフォーム
  3. Sea Group:急成長を遂げるeスポーツイベント分野の最先端企業
  4. 任天堂:オリジナルのハードウェアおよびゲームの開発により新世代のゲーマーを魅了し続ける企業であり、ビデオゲームを語るには欠かせない存在

Activision Blizzard:立て続けにヒットを連発

Activision Blizzardは世界最大のゲーム開発・販売会社です。同社が誇る有名タイトルにはシューティングゲーム「Call of Duty」や多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)である「World of Warcraft」などがあります。「Call of Duty: Modern Warfare」は米国で最も売れているビデオゲームです(4月末現在)。1 無料でプレイできるバトルロワイヤルゲーム「Warzone」は今年の配信開始から2カ月足らずで6,000万人ものユーザーを集めました。2 また、モバイル向けタイルマッチゲーム「Candy Crush」シリーズは、Activision Blizzardが2016年にKing Digital Entertainmentを買収して以来の最高プレイ数記録をこの第1四半期に更新しました。3

Activision Blizzardはビデオゲームのデジタル配信が長期的に伸びていることで恩恵を得ています。同社の総収益のうちデジタル販売チャネルでの売上が占める割合は、10年前にはわずか30%でしたが、この第1四半期には約80%となりました。デジタル配信は店舗でのディスク販売より収益性が高いことはいうまでもありません。デジタル配信では、3ドルのゲーム内課金でも、配送費用などの間接費が実質的にゼロであることを考えると非常に高い収益性が得られます。4 また、モバイルゲームのセグメントについても成長が続いており、現在では総収益の約3分の1を占めています。モバイルゲームのポートフォリオはCandy Crushシリーズだけではありません。2019年第4四半期に配信開始したCall of Duty Mobileは初週だけで1億ダウンロードを記録し、史上最多ダウンロードのモバイルゲームとなりました。5

今後については、ソニーのプレイステーションやマイクロソフトのXboxの新機種が発売される予定であることから、2020年のホリデーシーズンにActivision Blizzardの売上がさらに増加する動きがあることも予想されます。発売が予想されているタイトルとしては、伝説的となったTony Hawk Pro Skaterの最新版があります。

Activision Blizzardのデジタル収益および売上総利益率

Huya:中国の強力なストリーミング企業

ストリーミング配信の中には、ゲーマーがオンラインの観客に向けて自分のプレイの様子を実況配信するというスタイルのものがあります。ストリーミングプラットフォームはゲーム実況を行うために必要な技術を提供するとともに、ゲーマーが配信を収益化できるよう支援します。Huyaは中国で最大級のライブストリーミングプラットフォームであり、1億5,000万人を超える月間アクティブユーザー(MAU)と80万人のアクティブ配信者を擁しています。6 中国のストリーミングプラットフォームは欧米のプラットフォームと異なり、ユーザーから配信者への寄付が収益の中心となっています。TwitchやMixerなど米国のプラットフォームはサブスクリプションと広告から大半の収益を得ていますが、Huyaはプロのゲーマーと契約を結んで寄付金の50%~70%を自社の取り分として収め、残りを配信者に分配するという形をとっています。7 中国では、トップクラスのビデオゲーム実況者は1人当たり年間約4百万ドルの寄付金を手にしています。8

Huyaの第1四半期決算はモバイルセグメントの急成長とeスポーツイベントが寄与して好調な結果となりました。同社のモバイルセグメントにおける月間アクティブユーザー数は7,500万人に達して記録を更新しました。それらのモバイルユーザーは同社の課金ユーザー総数の80%を占めています。9 アクティブユーザー数は、ビデオゲームのストリーミングサービスを他のエンターテイメントサービスと比較する際に有用な指標となります。例えば、米国におけるNetflixの会員数は7,000万人ですが、これはHuyaのMAUより500万人少ない人数です。10 また、Huyaは第1四半期に18件のトーナメントとイベントを開催し、同四半期の視聴者数は1億1,300万人を超えました。これは前年同期比でみると79%の増加となっています。11

6億人のゲーマーが存在する中国は世界最大のビデオゲーム市場です。また、中国のストリーミングプラットフォームには明確な優位性があります。それは、TwitchやYouTubeなどの米国発ストリーミングサービスがグレート・ファイアウォール(中国政府による検閲システムの俗称)により遮断されていることです。Huyaは新たなアプリを導入し、新しいゲーマーが古参のゲーマーや有名なゲーマーに金銭を支払って一緒にゲームをプレイできる仕組みを構築しました。スキルの向上や人気ゲーマーと一緒にプレイできる機会を求めるユーザーにより、中国では新しい職業がブームとなっています。Huyaは中国以外にも目を向け、子会社であるNimo TVを通じてインド、東南アジア、ブラジルで成長機会を模索しています。

月間アクティブユーザー数比較

CAGR:年平均成長率

Sea Group:ゲーム開発とeスポーツ競技場の運営

2009年設立のSea Groupは東南アジアのデジタルエンターテイメント業界をリードする企業であり、約4億人のアクティブユーザーを擁するプラットフォームのGarenaを通じて事業を行っています。同社はゲームを自社開発しており、中でも「Free Fire」は1日のピークユーザー数が第1四半期に8,000万人に達して記録を更新しています。12 Free Fireは同四半期に東南アジアとラテンアメリカで最高の収益を上げたモバイルゲームとなりました。13 Free Fireが成功した一つの要因は、東南アジアで一般的に使われている比較的低性能な端末でもプレイできることです。他のバトルロワイヤルゲーム(Fortnite、Call of DutyPUBG Mobileなど)には高性能で高価なスマートフォンが必要です。

Sea Groupは東南アジアにけるeスポーツイベントの主催者としても主導的地位にあります。同社が2020年第1四半期に主催したFree Fireのeスポーツトーナメント数は2019年第1四半期と比較して倍増以上となりました。また、それらのトーナメントは東南アジアで累計9,000万人を超える視聴者を集めました。14 同社は昨年、Free Fireのトーナメントで世界進出を果たしています。昨年11月のイベントでは200万人のピーク同時視聴者数を記録しました。15 ちなみに、メジャーリーグサッカー2019年最終戦の視聴者数は130万人でした。16

Free Fireの成功により同社は他のゲームを開発して、収益拡大の可能性を得ましたが、それが同社の全てではありません。同社傘下のGarenaは、League of LegendsFIFA Online 3Point BlankBlade & SoulArena of Valorなど人気の高いサードパーティー製ゲームのオペレーターとして、東南アジアで同じく独占的な地位を築いています。17 Sea Groupの成長は東南アジアにおけるインターネット普及率の上昇と関係しています。東南アジアのインターネットユーザーは過去4年間に1億人増加して現在は3億6,000万人にのぼりますが、全体の人口である6億6,000万人からするとまだ増加余地があるといえます。18

2019年のパブリッシャー別eスポーツ観戦時間数

任天堂:常にイノベーションを続ける企業

「任天堂」は「ビデオゲーム」の象徴といえます。NES(Nintendo Entertainment System)に始まり、ゲームボーイ、Nintendo64、そして最新のNintendo Switchに至るまで、任天堂はビデオゲームのハードウェアとソフトウェアの概念を塗り替え続けています。Nintendo Switchの売上をみると、同社のピークはもっと先にあるといえるでしょう。発売から3年が過ぎているにもかかわらず、2020年になり外出自粛命令が出てからはNintendo Switchの売り切れが続いています。Nintendo Switchはこの4月に、台数と金額の両面で米国でのベストセラーハードウェアとなりました。19

任天堂は需要に応えてNintendo Switchの増産を計画しています。昨年の製造台数と販売台数は2,100万台を超えましたが、20 同社は今年の需要がさらに10%増加すると見込んでいます。21 1台当たりの平均売価を299ドルと仮定すると総売上高は66億ドルを超えることになります。

任天堂のユニークな点はハードウェアとソフトウェアを統合していることです。同社が開発するゲームは同社のハードウェアでしかプレイできません。同社の最新タイトル「あつまれ どうぶつの森」は3月に500万本を売り上げるヒット作となりました。これは単月の売上としては全ハードウェアで最高の記録です。22 ダウンロード版の販売本数は4月に360万本へと減少しましたが、発売からわずか2カ月後のデジタル売上およびデジタル収益としてはNintendo Switchの発売以来最高のタイトルとなりました。また、「あつまれ どうぶつの森」にはゲーム内課金があり、発売時の売上を超える収益が発生し続けます。大きくまとめると、任天堂のデジタルベース収益は今後も成長を続けるということです。2020年度について、同社のパッケージソフトウェアおよびアドオンコンテンツのダウンロード版は対前年比で72%の増加となりました。

任天堂のデジタル売上高

結論

ビデオゲームの観客は増加を続け、新機能の追加も続いています。その動きの中から次世代のインターネットが生まれてくる可能性があります。それは本物そっくりの仮想現実の中で数百万人のユーザーが双方向に関わり合う仮想世界かもしれません。今回取り上げた4社は、単なるゲームのプレイを超えた巨大なエンターテイメントとソーシャルなエコシステムへと業界が変貌していく過程の実証例だといえます。従来のスポーツが提供する体験は観戦に限られていますが、ビデオゲームとeスポーツは類まれない機能性を提供してくれます。友人とゲームを楽しみ、有名なゲーマーと交流し、ハイレベルな競技を観戦し、他のファンとつながる。それら全てがソファーでくつろぎながら行えるのです。「Formula 1 Virtual Grand Prix」のような最近のイベントには現実のドライバーや有名人が参加しています。また、Fortnite内で開催されたトラヴィス・スコットの「Astronomical Tour」のようなコンサートには毎回1,000万人の観客が集まり、私たちが知っている暮らしがバーチャルな世界へと移っていく可能性があることを示しています。23, 24