ブロックチェーン技術の発展を牽引する4社

ビットコインやイーサリアムをはじめとする暗号資産に馴染みのある投資家は多いですが、ブロックチェーンやデジタル資産のより幅広い開発分野で急成長している企業のエコシステムについてはあまり知られていないようです。本稿では、現在のブロックチェーン関連株式の分野における4つの主要セグメントと、各セグメントで事業を展開する主要な企業を見極めたいと思います。

  • ブロックチェーンおよびデジタル資産:カナン:ファブレス集積回路設計会社で、独自の高性能ASIC(特定用途向け集積回路)を通じて、スーパーコンピューティング・ソリューションを提供する。現在、同社の収益の大部分は、ビットコインの採掘用ASICの販売によるものである。
  • デジタル資産採掘:ライオット・ブロックチェーン:米国の大手ビットコインマイナーおよびホスティングサービスプロバイダー。北米最大のビットコイン採掘・ホスティング施設であるウィンストンデータセンターを運営している。
  • ブロックチェーンおよびデジタル資産の取引:コインベース:大規模な暗号資産取引所であり、暗号資産の経済のためのエンドツーエンドの金融インフラを提供するリーディングカンパニー。
  • ブロックチェーンの応用:オーバーストック:暗号資産での決済を受け付けるeコマース事業を展開する傍ら、ブロックチェーン企業へのベンチャー投資ポートフォリオを保有する。

カナン:ビットコイン採掘装置メーカー

カナンは、ビットメイン、マイクロBT、エバング、その他いくつかの小規模なメーカーが事業を展開するビットコイン採掘装置の最大メーカーの一つです。カナンはファブレスモデルを採用しており、主に製品設計と研究開発に注力する一方、半導体製造にはSMIC、TSMC、サムスンなどの大手ファブレスパートナーを採用しています。1

ビットコインの採掘に必要なハードウェアは、ネットワークの拡大に伴い、飛躍的に進化しています。初期のマイナーは中央処理装置(CPU)を利用し、次にグラフィック処理装置(GPU)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、そして現在は特定用途向け集積回路(ASIC)を利用していますが、これが今日ビットコインを採掘して利益を得るための最新の実行可能なハードウェアソリューションとなっています。2 カナンは、2013年にASIC技術を利用したビットコインマイナーを開発した最初の企業として、この移行期の最新段階をリードしてきました。3

ASICは、汎用的な計算とは対照的に、特定のアプリケーションを解決するために設計された半導体です。ビットコインマイニング用ASICの場合は、SHA-256暗号ハッシュ関数の出力をできるだけ速く計算することだけを目的に設計された半導体です(ビットコインマイニングと暗号ハッシュ関数の詳細については「ビットコイン:基礎編」をご覧ください)。

カナンの主な事業は、ビットコイン採掘用ASICの販売(AvalonMinerブランド)ですが、その他にもビットコイン採掘機用部品の販売、テクニカルアフターサービス、採掘機のリース事業も展開しています。最近では、カザフスタンでAvalonMinersを利用した共同採掘事業にも参加しています。4 カナンのビットコインマイニング用ASICの開発で培ったスーパーコンピューティングの技術力を活かし、AIアプリケーション向けに設計されたASIC市場にも参入していますが、現在の事業規模はごく小規模にとどまっています。

カナンはこれまで、いち早く市場に参入することで利益を得てきましたが、ここ数年は厳しい状況に直面しています。カナンのAvalonMinerシリーズの効率は、ビットメインのAntminerシリーズやマイクロBTのWhatsminerシリーズに及ばず、ビットメインとマイクロBTという非上場の2大メーカーの後塵を拝しています。さらに、カナンとその主要な競合他社はすべて中国企業であるため、中国が最近暗号資産の取引と採掘を禁止したことから、規制リスクへのエクスポージャーが高まっている可能性があります。5

但し、現在のビットコインマイナーに対する全体的需要は、こうした課題による逆風を上回っている可能性があります。現在、ビットコインはさまざまなASICマシンで採掘すると非常に収益性が高く、半導体市場の供給制約を背景に、限界費用が限界収益に近づくには複数年かかる可能性があります。これにより、現在ビットメインやマイクロBT社が製造している最新鋭の半導体を超えるASICの需要が生まれています。例えば、2021年12月9日時点のビットコイン価格とネットワークハッシュレートを使用し、産業用エネルギーコストを1キロワット時あたり0.03ドル(ホスティングサービスプロバイダーのBitfury6によるエネルギーコストと同じ)と仮定すると、カナンのAvalonMiner 1246は依然として1日に約25ドルの利益を生み出しています。7 比較対象として、ビットメインやマイクロBTの最高級マイナーは、同じ条件で1日あたり31ドル近い利益を得ることができますが、購入価格もそれに応じて高くなります。AvalonMinersに対する継続的な需要は、ハイブ・ブロックチェーン・テクノロジーズ、ジェネシスデジタルアセット、モーソンなどの大規模マイニング事業者からの最近の購入注文によって証明されています。8,9,10

ライオット・ブロックチェーン:ビットコインに特化した米国の暗号資産採掘事業

ライオット・ブロックチェーンは、ビットコインの採掘とデータセンターのホスティングサービスから収益を得る、米国最大の上場ビットコインマイナーの一つです。簡単に言えば、ビットコインマイナーとは、ビットコインの採掘用ハードウェア(ASIC)を入手し、最も電力コストの低いデータセンターを探して配置するビジネスです。

ビットコインの採掘とは、電力と高度なハードウェアを利用し、大掛かりな計算のプロセスによってビットコインのブロックチェーンを確保する行為を指します。ビットコインマイナーは、SHA-256暗号ハッシュ関数にさまざまな入力をできるだけ速く繰り返し、希少な出力を探します。暗号ハッシュ関数の出力はハッシュと呼ばれ、ハッシュレートは1秒間に計算できるハッシュの数を示す指標となります。

個々のマイナーのハッシュレートは採掘作業の規模を測るものであり、ビットコインネットワークの総ハッシュレートは個々のマイナーのハッシュレートをすべて合計したもので、ビットコインネットワークを総体的に確保する計算能力を測るものとなります。ハッシュレートは、テラハッシュ(TH/s)、ペタハッシュ(PH/s)、エクサハッシュ(EH/s)などの単位で1秒間に計測されることが多いですが、ここでは一貫して、1兆個のハッシュを表すテラハッシュを使用することにします。

2021年12月時点のライオットのハッシュレートは約3,000,000TH/sで、ビットコインネットワーク全体のハッシュレート173,000,000TH/sの約1.7%に相当します。11, 12 さらにライオットは、2022年第4四半期まで毎月オンラインによるBitmain Antminerの大規模な購入契約を反映して、2022年末までにハッシュレートを327%増の12,800,000 TH/sまで成長させると予想しています。13 近年、ライオットは、採掘したビットコインを投資としてバランスシート上に保有する柔軟性をてこに、オペレーション向けの資金調達元として資本市場を活用しています。2021年12月現在、ライオットは貸借対照表に約4,889枚のビットコインを保有しています。14

ビットコインの採掘から得られる期待収益はほぼ予測可能であり、ネットワーク全体のハッシュレートに対するビットコインマイナーのハッシュレートの割合として測定されます。現在、1日平均900ビットコインが新たに採掘されており、ビットコインネットワークのハッシュレートに変化がないと仮定すると、ライオットはこのうち約1.7%、1日あたり約15.3ビットコインを採掘すると推定されます。ライオットは、この他に取引手数料によるマイニング収入を得ている可能性がありますが、取引手数料はよりダイナミックで予測が難しい一方で、現在マイニングから得られる総収入の約1~2%を占めるに過ぎません。15

ライオットは、ビットコインの採掘装置とその装置を配置するホスティング設備の両方を取得し、事業を垂直統合するアプローチをとっています。ライオットは2021年に、北米最大のビットコインマイニングとホスティング施設であるウィンストンUSの超大型買収を完了しました。16 ウィンストンはテキサス州ロックデールに拠点を置き、100エーカーの敷地に300メガワット(MW)の発電容量備え、さらに400MWのインフラ拡張が現在進行中です。17 敷地は長期リース契約となっており、電力は州との間で締結されている長期電力供給契約により供給されています。18

ウィンストンの買収は、2022年に予定されているライオットのビットコインマイナーの大量購入のためのデータセンターインフラを確保するものですが、さらに同社は他のマイナーにデータセンターのホスティングサービスを販売できるようになり、売上内容の分散化に成功しました。2021年第3四半期のライオットの売上高のうち、データセンターホスティングの売上は約17%であり、残りはビットコインマイニングの売上となっています。19

さらに、ウィンストンの買収により、インフラストラクチャ面での革新に向けた柔軟性が生まれました。2021年10月、ライオットは初となる産業規模での液浸冷却ビットコインマイニングの開発を発表し、拡張分の200MWは空冷の代わりに液浸冷却を利用するとの声明を出しました。液浸冷却は、機械の内部温度を下げて運転することができ、機器の寿命を延ばし、メンテナンスコストを削減することができます。さらに、液浸冷却によりマシンのオーバークロックが可能となり、1台あたりのハッシュレートが25%、最大で50%向上すると見込んでいます。20

コインベース:デジタル資産取引所および暗号資産インフラのリーディングプロバイダー

コインベースは、最大級の暗号資産取引所であり、暗号資産インフラとサービスのプロバイダーでもあります。「誰でもビットコインにアクセスできるようにする」というミッションのもと、2012年に設立されました。同社は過去数年間にわたりコアビジネスである取引所の枠を超えて飛躍的に成長しており、2021年4月にはNASDAQへの直接上場を果たしました。2021年12月現在、コインベースの認証ユーザー数は73百万人以上、100カ国以上で事業を展開し、前四半期に取引された暗号資産の量は約3,300億ドルに達しています。21

コインベースは現在、フルサービスの暗号資産のプラットフォームとして、小売および機関投資家向け取引、融資、カストディ、ウォレット、ステーキング、デビットカード、ブロックチェーン分析、コマース統合、クラウドサービス、まもなく開始される非代替性トークン(NFT)市場など、幅広い事業を展開しています。コインベースの収益は現在もリテール取引が中心ですが、機関投資家向け取引やサブスクリプションおよびサービスが収益に占める割合が高まっています。サブスクリプションおよびサービス収益は非常に多様な収益ミックスを包含しており、この分野は2021年9月30日現在、前期比1256%増という驚異的な成長を遂げています。22

サブスクリプションおよびサービス分野のうち、寄与トップはブロックチェーン報酬となっています。この項目は、コインベースが2021年1月にブロックチェーンインフラストラクチャのPlatform as a Service(PaaS)企業であるバイソントレイルズを買収したことによって強化されました。23 バイソントレイルズは、バリデータノードを運用する技術的なノウハウを必要とせず、誰でもPoSブロックチェーンネットワークに参加することを可能にしました。同社は、個人、カストディアン、暗号取引所、ファンドが、パフォーマンスフィーを得ることができる特定の暗号資産からステーキングによるイールドを得ることができるサービスを提供しています。

コインベースにとってもう一つの重要な事業は、暗号資産の保管事業です。コインベースカストディは、独自に資金調達した独立事業体で、ファンド、機関投資家、個人富裕層向けにカストディソリューションを提供しています。同社は、2019年8月にサポ(Xapo)の機関投資家向け事業を買収して構築され、グレイスケール(Grayscale)の全製品が保有する資産のカストディを行うほか多数のクライアントを擁し、同社の推定では世界最大の暗号資産カストディアンとされています。24

サービス収益のもうひとつの牽引力は、暗号資産発行者がコインベースを媒体として、コインベースの大規模なリテールユーザーベースに暗号資産やトークンに関する教育コンテンツを普及させる「コインベース・アーン(Coinbase Earn)」プログラムです。これらの暗号資産発行者は、彼らのネットワークに関する教育コンテンツの利用のためにエンドユーザーにわずかな量の暗号資産を提供し、コインベースはアクセスを提供するために少額の配信手数料を課します。25 また、コインベースは、リテールおよび機関投資家向けに暗号資産担保ローンを提供することで金利収入を得ています。26

オーバーストック:暗号資産をサポートし、そのイノベーションに投資するeコマースビジネス

オーバーストックは主に、家具、インテリア、家庭用品などさまざまな商品を提供するeコマース事業者として知られています。一方で同社は、2014年以降、ブロックチェーン技術や暗号資産へのエクスポージャーを高めるために、多面的なアプローチを展開しています。まず、同社はコインベースと提携し、eコマースの顧客がビットコインで支払えるようにしたうえで、オーバーストックがこのビットコインで得た利益の一部をバランスシートで保有する柔軟性を財務面で完備しました。27,28 次に、同社は、メディチ事業と総称される子会社群を通じて、ブロックチェーン技術の開発・発展に向けたより全体的な取り組みを開始しました。29

メディチは、ブロックチェーン技術の透明性と安全性の特性を活用して、ID管理、財産権とその管理、中央銀行および通貨、資本市場、サプライチェーンおよび商取引、投票システムの6つの中核分野における問題解決に焦点を当てました。メディチ事業の主体は、ブロックチェーン企業への投資を行うベンチャーキャピタル企業であるメディチベンチャーズと、ブロックチェーン技術を資本市場に応用し、主にデジタル資産証券の分野で事業を展開するtZEROでした。

tZEROは、セキュリティトークンを継続的に取引するための規制された代替取引システム(ATS)を運営しています。非公開企業は、tZEROを利用して資本構造の一部をデジタル化することができ、IPOなどの流動性イベントを必要とせず、従来の証券取引チャネルを通じて非公開証券の継続的な取引が可能になります。プライベートセキュリティトークンとしては、tZEROでの取引のために上場しているAspen Digital Token(ASPD)が代表的な例です。ASPDは、コロラド州アスペンにある179室の5つ星ホテル、セントレジス・アスペン・リゾートのフラクショナル・オーナーシップを表すTezosベースのセキュリティトークンです。30 オーバーストックとtZERO自体も、tZERO上でセキュリティトークンを取引しています。31, 32 セキュリティトークン以外にも、tZEROは暗号資産を取引するためのアプリも提供しており、ビットコインやその他の代替暗号資産にアクセスすることができます。

結論

本稿でご紹介した4社は、今日のブロックチェーンとデジタル資産のエコシステムにおける主要な参加企業です。上場ブロックチェーン企業のエコシステムは過去数年で驚異的に進化しており、本稿で取り上げた企業以外にも、現在これらのセグメントで事業を展開している企業は数十社に上ります。さらに、今後1年間に特別目的買収会社(SPAC)や新規株式公開(IPO)を通じて、初めて公開資本市場にアクセスすることが予想される既存のブロックチェーン企業も、多数予想されています。

現在、ビットコインマイニングに関わる企業の多くが、暗号資産で投資家の注目を十分集めていないと思われる中で、これらの企業はブロックチェーンやデジタル資産分野の最先端に立って、広範かつテーマ性のあるエクスポージャーを提供しており、また暗号資産への直接的な投資に対する補完的なエクスポージャーを提供できる可能性があります。