遠隔医療とデジタル医療革命の中軸をなす4企業

新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、遠隔医療とデジタル医療の導入は、目覚ましい速度で進んでいます。しかし、これは、まったく予想できなかったニュースではありません。デジタル化に向けたヘルスケアのパラダイムシフトは、私たちが医療危機に直面している現在から数年前に、すでに動き出していたのです。この背景にあるのが、ヘルスケアの社会的不平等、長寿化、組織的非効率性、そして接続機能の向上といった社会構造動向で、こういった要因が、不可避と考えられていた医療セクターの技術導入を(緩やかながらも)後押ししてきました。

2020年に入って、コロナ感染拡大に伴う世界ベースの外出規制や社会不安が、この動きを駆り立てる形となっています。3月以降、私たちは数か月というより数か年レベルの、技術の破壊的変革を目にしてきました。フェアヘルスの報告書によると、2019年4月から2020年4月の間で、遠隔治療の要請件数は84倍に急増しました。1 人工知能(AI)を装備したヘルスケア分析ソフトは、医薬品・ワクチン開発、病状特定、病院トリアージ(治療優先順位)に有用なツールとなっています。2 健康監視ウェアラブルやスマート体温計などの接続型機器が日常的に使用される一方、医師は、遠隔集中治療室でそれらの機器を利用して、自らの健康を危険にさらすことなく、患者の治療ができるようになりました。こうした事例は、遠隔医療とデジタル医療の時代が到来したことを意味しています。

以降の欄では、急速に台頭する本テーマの中核である主要4社について検討します。

テラドック・ヘルス(Teladoc Health):遠隔医療分野の最大手

遠隔医療企業のテラドック・ヘルス社は、患者とヘルスケア提供者を、電話、画像チャット、同社プラットフォームを介して接続するサービスを提供しています。同社の主な事業は以下のとおりです。

  • 仮想初期治療事業: 患者と初期治療提供者を接続し、定期健診を実施。さらに、患者とかかりつけの医療提供者が継続的に交信し、将来を見越したテイラーメイドの健康計画を策定。同社の試験的導入では、仮想初期治療サービスが利用可能の場合、年次検査を受けたユーザーは30%増となった。3
  • 一般遠距離医療: オンデマンド予約で医療提供者と患者を接続。サービスは一般から特殊医薬品までを対象。注目点として、同社プラットフォームは、これまで3,300万件のメンタルヘルス診療を仲介。また、すべての遠隔地医療検診で、92%の患者が健康ニーズは満たされていると報告している。4
  • 慢性疾患介護管理: 医療提供者は、接続型機器やアドバイス機能に24時間アクセスし、患者の健康状態を診断できる。5

対面式診察による感染リスクを回避したい患者の動きを反映し、コロナ禍期間を通じて、テラドックのプラットフォーム利用数は急増しています。コロナ感染流行の第一波が確認された2020年第2四半期は、テラドックの仮想ヘルスケアアクセス件数が280万件と、前年同期比200%増を記録しました。6 夏期には感染数が低下傾向を示し、多くの関係者がアクセス件数の減少を見込んでいましたが、第3四半期の利用数は280万件と、前期と同水準を維持しました。7 第3四半期末時点の同社サービス登録ユーザー数は、前年同期比47%増の5,150万人となっています。もう一つの注目点は、現金と株式による総額185億ドルのリボンゴ社(遠隔地健康管理企業)買収手続きが10月に完了しました。この買収により、リボンゴの確立された遠隔地管理技術をテラドックの遠隔医療インフラに統合し、仮想治療市場の深堀りだけでなく、業界最大手の地位を揺るぎないものにできる可能性が高まりました。8

ニュアンス・コミュニケーションズ(Nuance Communications):AIを利用した医療ケアの最適化

ニュアンス・コミュニケーションズは、ヘルスケア業界におけるデジタル変革を推進する製品の販売に従事する企業です。同社は、ヘルスケア分析から事務管理デジタル化までに至る幅広いセグメントで事業を展開しています。主な事業セグメントは以下のとおりです。

  • 文書化ソリューション: 医療提供者向けの電子健康記録(EHR)作成支援。AI基盤の「ドラゴン・メディカル・ワン」製品が、患者の音声による説明を認識し、HIPAA準拠の精度の高い書類に文書化。9
  • 品質管理ソリューション: 人工知能を使い、医療提供者の臨床治療、財務、患者ケアの成果改善に向けた提案事項を生成。この事業の柱となる製品のひとつが「ニュアンス・パフォーマンス分析機能」で、医療提供者の業務改善と患者治療の最適化に資するリアルタイムのデータ解析と意思決定支援システムを提供。10
  • 診断用ソリューション: データから導き出される診断情報を提供することで、放射線科医師業務の効率、精度、品質、業務成果の向上を支援。人工知能を活用する「パワースクライブ・ワン」製品が、ワークフローの自動化と、音声データの構造化とデジタル化を実現。11

ニュアンス社のヘルスケア分析と事務管理デジタル化製品は、コロナ禍の全期間を通じて堅調な売上高を達成しています。同社が発表した2020年度第4四半期決算で、ドラゴン・メディカル・ワン(DMO)製品は好調な売上高を維持し、同事業セグメントは前年同期比26%の増収、米国市場での普及は43%に達しました。現在世界14か国で販売され、全般的に堅調な売上成長を示しています。特に英国市場での成長が目立ちます。堅調なDMO売上高成長と並行して、クラウドを使うヘルスケア・プラットフォーム(サービス基盤)の市場浸透も進んでいます。互いのシナジー効果と大きなデジタル化傾向の追い風を受け、両製品は快調に業績を伸ばしています。

アイリズム・テクノロジーズ(iRhythym Technologies):  遠隔健康診断とウェアラブル機能の結合

アイリズム・テクノロジーズは、心臓機能の監視や不整脈検出のソリューションの開発と販売に従事しています。主な製品は以下のとおりです。

  • 接続型ウェアラブルパッチ: 医師と患者が治療コースを決定・説明するために必要な心臓データを計測記録。同社製「Zio XT」パッチを組み込んだバイオセンサーが、患者の心拍状況を最長14日間計測・記録。これを使い、医師は遠隔からの最新情報を取得できる。12
  • Zioサービス: 終端間移動式監視サービス。接続型ヘルスケア機器が統合したデータを分析し、遠隔医療ソリューションを通じてサービスを提供。医師は「ZioSuite」で、Zioサービスが作成した報告書を解読し、個々の患者に適した治療を実践する。13

コロナウイルス感染症が深刻化した2020年第2四半期に、アイリズム社の経営陣は、「現在の事業環境は、ヘルスケアの実践手法をめぐる構造変化が起こる可能性が高く、(この状況は)当社のデジタルプラットフォーム事業にとってはプラス要因になります」とコメントしています。14 続く第3四半期は、コロナ感染患者数が低下傾向にありましたが、Zioの処方を利用する顧客数の伸び率は年初比で伸長し、同社の見解を正当化した形になっています。また、遠隔医療の進展は、Zioプラットフォームの登録者数増を押し上げる役割を果たしていますが、これは、本稿のテーマの両下位セグメントが、支援者かつ受益者として互いに寄与し合っていることを明示しています。

インビテコーポレーション(Invitae Corporation):遺伝子データを使った治療の最適化

インビテコーポレーションは、医療提供者と患者向けに生殖細胞遺伝子検査を実施し、医療提供者の医療実務に活用する膨大な種類の遺伝子データを提供する企業です。同社が提供するデータは、細胞DNAの遺伝子変異が引き起こす、癌を始めとした病気の発生リスクを深く理解する上での手掛かりとなる有益情報です。同社のサービスは、自身の健康リスク要因を、先を見越して理解しようとする患者や、患者に対する最適な治療方法の提案を探求する医療提供者にとり、大変有益な事業となる可能性があります。

コロナ禍のなかで、遺伝子データの評価は高くなっています。これは、コロナウイルス感染症で重症化・死亡するリスクが高い遺伝子型が存在することが確認されてきているためです。インビテ社の2020年度第3四半期決算にも、この動きが顕著に表れています。同期間中の遺伝子検査件数は、前年同期比で32%増、前四半期比で41%増となりました。もう一つの好材料は、14億ドルを投じたアーチャーDXの買収手続きが完了したことです。この買収により、脳腫で見られる遺伝変異を検出する体細胞検査サービスなどの強化が期待できます。遺伝子検査市場は非常に大きな潜在性を持っています。インビテ社のような企業は、遺伝子検査の技術と情報が、全世界の患者に利用されることを目指して取り組んでいます。15

結論

医療保健データの記録・分析技術、さらには接続型医療機器が目覚ましい発展を遂げているにもかかわらず、ヘルスケア分野では、長年にわたってこうした技術を駆使するデジタル革命の採用意欲がなかなか盛り上がりませんでした。しかし、コロナ禍により、破壊的変革が動き始めました。本レポート内で取り上げた有望な製品とサービスが示すように、遠隔地医療サービス、高度な患者監視、AIを活用した情報獲得、ヘルスケア事務管理の合理化を実現させるソリューションの採用は、世界ベースで急速に進んでいます。Global Xでは、患者、医療提供者、保険機関が利便性を認識するにつれ、このテーマの成長拡大は今後も継続すると考えています。