ロボティクス、AIの4つのキーセグメント
技術の進展に伴い、ロボティクスやAIが各種業界や日常生活の中で果たす役割は重要性を増しています。本レポートでは、ロボティクス及びAIの以下主要4セグメントに焦点を当てます。
- 産業用ロボットとロボットオートメーション—産業用途向けロボットならびにロボットオートメーション製品及びサービス
- 非産業用ロボティクス— ヘルスケア・ホスピタリティ・消費者分野等、非産業用途向けのロボットならびにAI
- 無人車両及びドローン— 軍事・消費者・商業用途向けの自動運転・自走式車両ならびにドローン
産業用ロボットとロボットオートメーション:製造革命を牽引
ロボットは様々な業界に続々と参入していますが、最も古くからロボットが多用されてきたのは製造分野です。当初は大型のロボットアームをプログラミングし、工場内において自動車部品のピッキング・装着機等の重量物を動かすのに利用されていました。現在は、視覚認識、マシンラーニング、故障予測、協働ロボット(コロボット)等、最先端技術の導入でマシンの能力が飛躍的に向上し、製造プロセスを進化させています。
2009年から2017年にかけて、産業用ロボットの販売台数は年間60,000台から381,000台へと年平均 (CAGR)26%のペースで成長しています1。産業用ロボット活用の最前線を行くのは、効率性と精度が引き続き最も重視されている自動車業界で、総需要に占める割合が最も高くなっています。自動車業界に僅差で続くのが家電業界で、主に最新機器の機械加工や組み立てに利用されています。事実、この2つの業界だけでロボット購入高全体の約2/3を占めています。
エフェクターの進化-物を掴んだり、動かしたりするエンド・オブ・アーム・ツール (EOAT)の登場で、ロボットの新たな業界への進出が加速しています。例えば、ソフトグリッパーは生鮮食料品を繊細に取り扱うことができ、視覚機能が搭載された装置では様々な物が入った容器から1個のツールを正確に取り出すことができます。また、動作や感度の向上に伴い、エフェクターを装着することでロボットは非常に小型かつ繊細な部品を取り扱えるようになり、その性能は人間の手と同じ領域に近づきつつあります。EOATは別のタイプのツールに容易に交換できるため、ロボットは多種多様なタスクに対応することが可能です。
産業用ロボットのさらなる成長を牽引しているのが、人間のすぐ横で操作しても安全な協働ロボットです。人間との事故を回避するため、ロボットはこれまでケージや閉鎖された空間に閉じ込められていました。しかし現在では、共に働く人間の安全を守るため、ロボットには多数のセンサーやディープラーニング機能が搭載され、また軟質素材が使用されています。協働ロボットの多くは従来型ロボットと比べ軽量で可動性に優れ、費用も低くなっています。世界の協働ロボット市場は2018年の7億1,000万ドルから2025年には123億ドルに成長することが予想されます2 。また、協働ロボットが産業用ロボットに占める割合は2018年では11%となっていますが、2025年までには約35%に上昇する見込みです3。
中国は2位以下を大きく引き離し世界最大の産業用ロボット市場となっており、その市場規模は韓国、米国、日本を合わせた規模を上回っています4。しかしながら、労働者1万人当たりのロボット密度は低く、中国のロボット市場にはさらなる成長余地が存在します。中国では賃金の上昇が続いており、コストの低いベトナム、カンボジア、タイ等への製造機能移転が進んでいることから、これは重要なポイントです。
中国は世界最大の製造基地としての地位を維持したいと考えており、ロボット需要は拡大しています。中国のロボット密度は製造業界の労働者1万人当たり97台と低い水準にあります。世界平均の85を若干上回ってはいますが、韓国(710)、シンガポール(658)、ドイツ(322)、日本(308)といった中国に並ぶ製造大国の密度を大きく下回っています。中国政府は2020年までにロボット密度を150とすることを目標としています5。
非産業用ロボティクス:他産業へのロボット進出
非産業用ロボティクス分野では、エンジニアや開発者がオートメーション技術の新規用途開発を目指しており、依然として比較的初期のステージにあります。
非産業ロボットの用途として最も成長が著しいのはヘルスケア分野で、低侵襲手術の治療成績向上に向け既にロボットが導入されています。ロボット支援手術では、外科医の監督の下、人間の手では困難である正確な切開や動作にロボットを利用しています。ロボットが使用される主な分野は一般外科、婦人科、泌尿器科ですが、より複雑な医療処置でも導入が進んでいます。世界全体で見ると、ロボット支援手術は米国以外では依然として浸透率が極めて低く、世界全体では二桁成長を続けています。例えば、ロボット支援低侵襲手術分野の世界的大手Intuitive Surgicalの米国におけるシステム導入台数は3,200台であるのに対し、米国外では約1,800台にとどまっています6。
ロボットの他用途としては農業分野がありますが、コストの上昇や労働力の不足がこの分野におけるロボットの導入を後押ししています。最近のロボットは果物や野菜を潰すことなく収穫し、摘み取ることができます。現在、収穫ロボットには、作物の成熟度を判断できる最先端の画像処理装置(GPU)、LiDARベースの自律ナビゲーションシステム、3Dセンシング機能が搭載されています7 。さらに、自動運転トラクターで作物の状態確認や収穫を行い、ドローンで空から収穫高を測定し、作物の健康状態を確認することもできます。
人気が高まっている非産業用ロボットの各種用途を下表にまとめています。
無人車両及びドローン:新たな道を拓く
破壊的技術は日常的な問題の解決から生まれる場合があります。その良い例がドローンです。インフラが未整備、危険、不整地、大渋滞等でアクセスが困難な地域にはドローンが最適です。例えば、ルワンダでは道路事情が悪く、利用できる交通機関が限られており、これが迅速な治療を受けることが困難な状況に拍車をかけていました。今なら医師がメールで血液や医薬品類を注文するだけで、遠隔地でもドローンが直ちに配達してくれます8。
同様にインドネシアは世界最大の群島国家ですが、インドネシアを形成する16,000を超える島々の間でフェリーを使って荷物を運搬するのは、費用も高くつき、環境にも優しくない気の遠くなるような仕事です。しかしドローンを使用すれば、医療用品の運搬を改革し、電子取引プラットフォームを使ってインドネシア全土の顧客にアクセスすることが可能です。
最近では、Uberがエアタクシーとして利用可能な自律飛行航空機に注目しており、2023年に商業運航の開始を予定しています。UberAIR(ウーバーエア)であれば、操縦することなく、飛ばすだけで乗客をサンフランシスコのマリーナからサンノゼのダウンタウンまで、陸なら2時間12分かかるところを約15分で運ぶことができます。
ドローンは水中探査にも使用されています。水中探査に使用されるドローンは、潜水艦の約10倍超に相当する2万フィートの深さまで潜水し、最大で72時間水中に止まることができるため、海底調査で収集できるデータを3倍に増やすことが可能です10。
2018年、ドローン市場全体の売上高は180億ドルに達し、2024年までには425億ドルに達する見込みです11。ただし、商業・消費者向け用途が拡大しているにもかかわらず、ドローン市場は依然として軍事用途が最も大きな比率を占めています。さらに、短期的には軍事用途向けの研究開発がドローンの成長を牽引する見込みです。アメリカ国防総省は2020年の予算の中で、無人システムの予算として約37億ドル相当を要求しています12。しかしながら、ドローン技術やAIシステムは進化を続けており、トラック輸送や海上輸送、日常的な交通手段等の分野が自律運転に移行すれば、市場規模は数兆ドル規模に達する可能性があります。
人工知能:腕力より知力
AIの進展に伴い、ロボットはさらに複雑な環境や状況を学習し、これに適応し、対処できるようになっています。例えば、スマートファクトリーでは、多数のセンサーを使って画像、測定値、診断結果等の情報を収集します。その後、収集されたデータをAIシステムに入力することで、エンジニアに対して保守上の問題点や質の低下について注意を喚起する等を通して、全体的な効率を向上させることが可能です。
ロボットの世界的大手は、各社が得意とするマシンにAIソフトを組み込むことに長けています。かつて、ロボットの訓練は多大な労力、時間、資本、技術的専門知識を必要としていましたが、AIシミュレータの精度が向上し、学習した内容を実際の用途に正確に適用することが可能になっています。AIシミュレータであれば、数千に及ぶ反復プロセスを数秒で実行し、膨大な量のトレーニング・データを生成することが可能です。シミュレーション内容と実際の用途の間にある溝を埋められるようになったのはごく最近のことです。
製造現場以外でも、ロボットによる業務自動化(RPA)が企業に普及しつつあります。RPAは、ソフトウェアを用いて予想可能な作業や反復作業を再現するものです。RPAは、社内と社外のシステム間のデータマイグレーション、データの検証、計算、カルテ記入等、ルールに基づくプロセスに特に有効です。例えば、銀行ではRPAを使って取引決済作業を効率化しています。RPAによる作業には、取引の決済、注文内容の確認や相違の調整等が含まれます。成立しなかった取引の照合は、人間であれば5-10分を要しますが、ロボットであれば同じ仕事を4分の1秒で遂行できます13。
RPA市場は2025年まで年平均31.1%(CAGR)のペースで成長し、約40億ドル規模に達する見通しです14。ただしAIの能力は反復作業を再現するだけにとどまらず、向上を続けており、RPAが氷山の一角であることは言うまでもありません。
需要分析:機会は無限に存在
ロボットはさらにスマートに、低価格に、また器用になっており、これが各種業界への導入を後押ししています。また、マクロ経済環境、人口動態、政府による政策もロボットに対する関心の高まりに拍車をかけています。
- 自動化及びAIに対するニーズはかつてないほど高まっています。米国では初めて求人数が求職者数を上回りました。サービス業界に及ぼすRPAの影響や製造の自動化等、より多くの業界にとって、ロボティクスは潜在的な解決策となっています。さらに、人件費が安いためにかつてはロボティクスの導入を回避した企業の中でも、賃金の上昇や人口の高齢化に伴い、自動化により魅力を感じる企業が増えています。例えば、中国では2010年から2017年にかけて賃金が57%以上も上昇し、発展途上国と比較した中国の製造分野における競争力は損なわれています15。
- ロボティクスで関税に対抗することができます。世界的に統合が進むサプライチェーンにおいては、業務を人件費の安い国にアウトソースする傾向にあります。しかしながら、関税や保護政策がこのシステムを脅かし、オフショア化にかかるコストの増大を招いています。こうした政策に伴うリスクに直面している企業は、地域に関わらずコストを削減できる新たなプロセスを検討するものと思われます。現在は、技術コストの低下やロボットをサービスとして利用するロボティクス・アズ・ア・サービス(RaaS)モデルの成長が、オフショア化に代わる解決策を示唆しています。こうした解決策を用いることで、継続的な自動化を通して関税による負の影響を相殺できる可能性があります。
- 政府は自動化によるリショアリングを後押ししています。「メイド・イン・チャイナ2025」計画のような政府による戦略的な取り組みでは、自動化による中国企業の競争力向上を目指しています。中国政府は、この戦略の一環である「ロボット産業発展計画」の中で、2020年までにロボット密度150を達成することを目標としています16。同様に、米国でもロボットやAIの力で製造コストがコストの低い製造諸国と同じ水準に下がりつつあり、米国の国内製造セクターが再活性化する可能性を示唆しています。
結論
機械工学、材質科学、人口知能の進展に伴い、ロボットは多種多様なタスクに対処できるようになっています。こうした分野の発展に伴い、ロボットには引き続き新たな機能が追加され、コストも低下し、さらに幅広い分野への導入が進むことが予想されます。こうした分野には、製造、輸送、ヘルスケアに加え、家庭やオフィスが含まれます。現在のところ、企業はこうした技術を事業にどのように活かすか検討を進めている段階であることから、ロボットやAIは依然として需要曲線の初期段階にあるといえます。
関連ETF
BOTZ:グローバル・X・ロボティクス&アーティフィシャル・インテリジェンスETFは、ロボットや人口知能(AI)の導入及び利用拡大で恩恵を受ける可能性が高い企業を投資対象としています。こうした企業には、産業用ロボット及び自動化、非産業用ロボット、自走式車両に関わる企業が含まれます。
脚注
- IFR International Federation of Robotics, “Global industrial robot sales doubled over the past five years,” Oct 18, 2018
- The Robot Report, Feb 2019
- Loup Ventures, “Industrial: Robotics Outlook 2025,” Jun 5, 2017
- IFR International Federation of Robotics, “Summary – Outlook on World Robotics Report 2019 by IFR Steven Wyatt, IFR Vice President, presented preview by regions, markets and key challenges,” Apr 10, 2019
- Bloomberg, “China Sets the Pace in Race to Build the Factory of the Future,” Jun 12, 2019
- Intuitive Surgical, “Investor Presentation Q2 2019,” Apr 18, 2019
- Specifications correspond to Agrobot Robotic Harvesters machines, powered by Nvidia’s technology.
- BBC, “Drones deliver blood and medical supplies in Rwanda,” May 1, 2018
- Retrieved from https://www.uber.com/us/en/elevate/uberair/
- Bloomberg, “Underwater Drones Nearly Triple Data from the Ocean Floor,” Jun 7, 2019
- Robotics Business Review, “Market for Commercial Drones to Nearly Triple by 2024, Research Says,” Mar 29, 2019
- US Department of Defense, “DOD Releases Fiscal Year 2020 Budget Proposal,” Mar 12, 2019
- The Lab Consulting, “Robotics in Banking with 4 RPA Use Case Examples.”
- Grand View Research, “RPA Market Size Worth $3.97 Billion by 2025 | CAGR: 31.1%,” Apr 2019
- IFR International Federation of Robotics, “Why robot sales in China will survive slowdown in car production,” Apr 4, 2019
- Ibid