バイオテクノロジー:医療の未来を切り拓く
本稿は、グローバルXの代表的リサーチプロジェクトCharting Disruptionの中で取り上げた主要なテーマをさらに掘り下げるシリーズの1つです。
バイオテクノロジーは今、医療イノベーションの最前線にあります。これに伴い、これまで難治性とされていた疾患も治療可能なもの、場合によっては治癒可能なものに変わりつつあります。人工知能(AI)、ゲノム科学、プレシジョン・メディシン(精密医療)のブレイクスルーを原動力として、この分野は治療法の発見、開発、提供の方法を一変させています。製薬の研究開発費は、2030年までに現在から約17%増加して3,600億ドル(54兆円)に達すると予想されており、企業の投資は、さらに標的を絞った持続的で効率的な治療法を実現できるプラットフォームに向かっています1。
このシフトは、疾患に対する理解が分子レベルおよび遺伝子レベルで進んでいることを反映しています。遺伝子治療、細胞治療からGLP-1に至るまで、新しい治療法は、単に症状に対処するだけにとどまらず、病気の生物学的な根本原因を標的としています。その結果、世界のヘルスケア業界におけるバイオテクノロジーの役割は、実験的な先端分野から構造的成長の推進力へと拡大しており、患者、医療提供者、投資家のいずれにとっても重要な意味を持っています。
重要なポイント
- バイオテクノロジー市場は、ゲノム科学、人工知能、プレシジョン・メディシン(精密医療)の融合によって新たな成長段階に入りつつあり、世界の研究開発投資は2030年までに3,600億ドル(55.8兆円)に迫ります2。
- 慢性疾患治療を一変させる「GLP-1」や、希少疾患から幅広い臨床採用へと移行しているゲノム医療など、画期的な治療プラットフォームは利用範囲を広げ、効率性を高めています。
- バイオテクノロジーは長期の構造的成長テーマであり、高齢化、ヘルスケアの近代化、技術革新が先進的治療の継続的な需要の原動力となっている世界的な傾向と合致しています。
治療の可能性:イノベーションの転換点
医薬品のイノベーションは、精度とスケーラビリティがカギとなる新たな段階に入っています。現在、疾患を効果的に標的にして長期寛解の可能性をもたらすような生物学的製剤、遺伝子治療、細胞治療が規制当局の承認を受けるケースが増えています。それと同時に、AIや高度なモデリングが、治験デザインと予測精度の向上、開発サイクル全体のコスト削減と期間の短縮をもたらしています。
しかし、どの治療分野も同じように成功を収めているわけではありません。リスクとリターンの状況は専門分野によって大きく異なり、生物学的な複雑さ、患者数、商業的な可能性の違いを反映しています。
上図に示されているとおり、心血管疾患、皮膚疾患、神経疾患などの分野は、平均的に医薬品の承認率が高いと予想され、大きな将来性が見込まれます。一方、腫瘍と血液疾患の治療は承認が得られない確率が高いものの、持続的なアンメットニーズがあるため、引き続き高水準の投資を集めています。
このような機会の分布は、イノベーションが単発のブレイクスルーから適応性の高いプラットフォームに移行しているという基本的な傾向を浮き彫りにしています。遺伝子編集、mRNA、抗体薬物複合体などのテクノロジーは、現在では様々な疾患に合わせて調整することが可能になり、スケーラビリティを高め、リスクを分散させることができます。プラットフォームベースの研究開発は、治療法の発見を加速するだけでなく、医薬品開発をモジュール化することで、企業が既存の科学基盤や流通インフラを活用してパイプラインを拡充することを可能にします。
医薬品の研究開発は、科学的な準備状況、患者のニーズ、財務的な実現性が揃った高い効果のある標的を見極めるという緻密な作業になりました。資本配分が厳しくなる中で、成功のカギを握るのは、臨床的、商業的な機会が最も大きい領域とイノベーションをつなげる力と、データに基づくインサイトです。
GLP-1治療法:代謝疾患以外の領域にも拡大
かつては糖尿病と肥満の管理に限定されていたGLP-1受容体作動薬は今、バイオテクノロジーで最も汎用性が高く、大きな変革をもたらすカテゴリーの一つへと進化しています。食欲、代謝、炎症を調節するその作用機序は、代謝性疾患以外にも広く応用できる可能性があります。
2型糖尿病と肥満以外に慢性腎臓病、心血管疾患、アルツハイマー病など7つの新たな適応症が加わることで、GLP-1の売上は2020年から2032年までに10倍近く増加し、1,830億ドル(28.4兆円)に達する見込みです3。
現在、承認済みのGLP-1製剤は十数種類ありますが、2032年までにさらに25種類以上の新たな化合物が上市される可能性があります。このようなパイプラインの幅広さは、臨床的な裏付けと商業的な信頼の高まりを反映しています4。単一の治療経路で複数の慢性疾患に対応できることは、バイオテクノロジーの価値がますます「融合」と連動していることを示します。つまり、1つのイノベーションが複数の医療分野にわたって連鎖的な恩恵をもたらすということです。
ゲノム医療:概念の実証から実用化へ
かつては高リスクの研究分野であったゲノム医療は、商業的に実現可能なヘルスケアの土台へと成熟しつつあります。遺伝子治療、細胞治療、遺伝子改変細胞治療、遺伝子編集を含むこの分野の売上は、2032年までに年間約800億ドル(12.4兆円。医薬品全体の売上高の約5%)に達すると予想されます5。
そのような成長(年平均成長率の予想は32%)は、安全性の向上、生産規模の拡大、規制当局による承認の加速に伴い、信頼が高まっていることを反映しています6。ここ数年、FDAが承認した遺伝子治療・細胞治療の件数は過去最多となり、このテクノロジーの臨床的な有効性が裏付けられるとともに、幅広い患者集団への適用拡大が進んでいます7。
このようなブレイクスルーにより、医療は症状に対処するだけにとどまらず、真の病状改善を目指すことが可能になっています。現在の治療法は、遺伝子異常をその根源で標的とすることができるようになり、これまで慢性的あるいは致死的とされた疾患を一度で治療できる可能性を秘めています。ゲノムプラットフォームは、生産コストの低下と送達メカニズムの進化に伴い、心血管疾患や代謝疾患といった患者数の多い病気への応用も検討され始めています。
ゲノム医療はニッチなカテゴリーではなく、次世代の医療のカギへと急速に進化しています。個別化治療を実現し、医療システム全体にわたり長期的な成果を改善する可能性を秘めたソリューションと言えます。
結論:医療の未来
バイオテクノロジーは今、発見から実用化へと移行しつつあります。かつては実験的な科学にすぎなかった分野が、今では世界のヘルスケアを推進する大きな原動力になっています。その本質は、生物学的な知見をスケーラブルなソリューションに転換する力です。ヘルスケア業界では、人工知能、ゲノム科学、データアナリティクスの融合に伴い、医療のスピードと精度の向上、そして患者一人ひとりに合わせた個別化が進んでいます。
GLP‐1治療は慢性疾患管理の領域を広げています。ゲノム医療はニッチな応用から幅広い臨床診療へと進展しています。さらに、プラットフォームベースのイノベーションにより、企業は発見した治療法を様々な疾患に合わせて応用することが可能になり、医療面と運用面の両方で効率が高まっています。
こうしたブレイクスルーが研究から実用化へと向かえば、次世代のヘルスケアソリューションへのエクスポージャーを求める投資家にとって強い追い風になりそうです。バイオテクノロジーは、高齢化、技術進歩、ヘルスケアの近代化というトレンドが交わるところに位置する長期の構造的成長テーマであり、そのイノベーションは将来の機会を促す起爆剤にも、その行き先を導く羅針盤にもなります。
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