ビデオゲーム業界にとって2020年は大きな変革の年となる

現在のビデオゲーム業界は、かつてのアタリ社のアーケードゲームの時代から大きく進化を遂げています。ご存知のように、現実にとても近い3次元グラフィックスは、1980年代は当たり前だった8ビットによる縁がギザギザのグラフィックスとは似ても似つきません。一方、新世代のプレイヤーの好みもグラフィックスの進化と同様に著しく進化しており、ひいてはそうした需要に応えようとしている企業も進化しています。通常は、ゲーム機やゲームタイトルの世代交代が漸進的に行われる業界にとって、年の後半に次世代ゲーム機が発売される2020年は緩やかな改善に思えるかもしれません。しかし、グラフィックスのさらなる高度化は表面的な変化にすぎず、ビデオゲーム業界はゲーム機とゲームソフトの販売形態を一変させるであろう長期的な変革に備えようとしています。

このレポートでは、2020年のゲーム機の新しい世代への移行サイクルが業界にとって何を意味し、クラウド・ゲーミングの進化により今回のサイクルがPlayStationとXboxにとって最後のサイクルとなることを意味すると考えられる理由を探ります。

新世代のゲーム機ではグラフィックスと処理速度が改善されます

マイクロソフトとソニーは2020年のホリデーシーズンにそれぞれ新しいXboxとPlayStationを発売すると見込まれています。両社がゲーム機のハードウェアを刷新するのは2013年以来のことになり、8K テレビへの対応、レイトレーシング(ray tracing)およびソリッドステートドライブ(SSD)ストレージの採用といった機能強化が図られ、ゲームに誰も経験したことのないリアリズムとロード時間の短縮をもたらすと予想されています。その他の詳細については、メーカーがしっかりとガードを固めており、まだ明らかになっていません。

PCゲームが成長しているにもかかわらず、専用機向けゲームは依然としてゲーム市場の大きな部分を占めており、2019年の世界のゲーム市場に占めるシェアは30%(453億ドル)と1、シェアが24%(353億ドル)だったPCゲームをやや上回りました2。そして、46%(682億ドル)と市場シェアが最も大きかったのが、これから説明するモバイルゲームです3

■ゲーム機のサイクル
任天堂の平均サイクルは5.4年
ソニーの平均サイクルは6.3年
マイクロソフトの平均サイクルは6年

新世代ゲーム機はゲームソフト制作会社に恩恵をもたらします

歴史を振り返ると、新しいゲーム機の発売はゲームソフト制作会社にプラスの波及効果をもたらしてきました。結局のところ、最先端のゲーム機であっても、新世代ゲーム機の機能を活用できる新しいゲームソフトがなければ意味はありません。発売が予定されている新しいゲームタイトルにはBattlefield 6(バトルフィールド6)やThe Sims 5(ザ・シムズ5)など実績のあるタイトルの最新版などがありますが、GTA 6やAssassin’s Creed Ragnarok(アサシンズ・クリード・ラグナロク)など、発売予定がまだ確認されていないタイトルもあります。

2013年にゲーム機の世代交代を促した前回のスーパーサイクルは、ゲームソフト制作会社の株価に大きな上昇をもたらしました。Xbox OneとPlayStaiton4(PS4)が発売されたこのスーパーサイクルでは、アクティビジョン・ブリザード、テイクツー・インタラクティブ、ユービーアイソフト、エレクトロニック・アーツなど大手ゲームソフト制作・販売会社の株価パフォーマンスが総じて市場全体およびハイテクセクターを上回りました。販売台数はPS4が約420万台に、Xbox Oneは2013年末までの約5週間で300万台に達しました。一方、Call of Duty:Ghosts(コール・オブ・デューティ:ゴースト)のような売れ筋ゲームソフトの販売数は同じ期間に1,270万本に達しました4

■主要ゲームソフト企業株価推移(2013年1月2日~2014年12月31日)
(前回のゲーム機のサイクル時における)

上の図表に示されているパフォーマンスは、各銘柄の終値に基づいており、将来の結果を保証するものではありません。投資のリターンと投資元本の額は変動するため、投資家が保有株式を売却した時点での株式価値は元の投資コストを上回る場合と下回る場合があり、現在のパフォーマンスは上の図表に示されているパフォーマンスを上回る場合と下回る場合があります。

注:AnualEqは、複利の影響を考慮した年間収益率です。

立ち止まる必要はありません:クラウドとモバイルがゲーム体験をさらに広げます

最新のゲーム機の発売は、ゲーム業界の短期的なカタリストとして貢献する可能性がある一方で、ゲーム機時代の終焉をもたらす可能性もあります。大手ハイテク企業は既に、複数のデバイスでゲームをプレイすることを可能にする「ゲーム機の要らない未来」に向けてクラウド・ゲーミングと呼ばれるサービスを準備しており、マイクロソフトは「Project xCloud」、ソニーはPlayStation Now、グーグルはStadiaを立ち上げています。クラウド・ゲーミングとは、ゲームが遠隔地のサーバー上で実行され、サーバーでつくり出されたストリーミング映像を、高速インターネット接続を介してテレビ、ラップトップ、デスクトップ、タブレット、スマートフォンなどのデバイスで受信・表示する方式のことです。複数のプレイヤーが同じゲームに参加したり、同じプレイヤーが異なる端末で、あるいは外出先で同じゲームをプレイしたり、ゲームを中断したところから再開したりできます。

ネットフリックスが映画やテレビ番組の配信モデルに破壊的影響をもたらしたように、クラウドゲームはビデオゲーム業界に同様の影響を与える可能性があります。クラウドゲームは、端末にインストールまたはダウンロードされるのではなくストリーミング方式で配信されるため、プレイヤーが一つひとつのタイトルを購入する形態から、プレイヤーが幅広いゲーム・ライブラリにアクセス可能なサブスクリプション・ベースのサービスに加入する形態へ移行する可能性があります。アップルは既にモバイルゲームの分野でサブスクリプション・モデルを開拓しており、ゲームソフト制作会社と協力して、100点を超えるゲームソフトに無制限でアクセスできるApple Arcadeサブスクリプションサービス向けのゲームソフトを制作しています。こうしたサブスクリプションサービスによって、ソフトの1回限りの購入による収益計上から経常的に収益を計上することが可能となり、個々のプレイヤーに関する貴重なデータを収集して的を絞った広告およびサービスを提供することも可能にします。

留意すべき点は、現在ハードウェアで実現している機能をクラウドで完全に再現するのは依然として難しいということです。ゲーム機でゲームをする場合、その処理は端末側で実行されるため、待ち時間が短縮され、高度な視覚的質感を実現します。今のところ、クラウドゲームはゲーム機ベースの体験に取って代わるものではなく、代替的な手段となる可能性が高いです。ただし今後7年以内には、次世代通信5Gの高速通信とエッジコンピューティング(端末の近くにサーバーを分散配置するネットワーク技法)によって遅延の問題が解消されるため、クラウドベースのゲームがゲーム機に取って代わる可能性は高いと言えます。

■クラウドゲームのエコシステム

注:上記の企業は例であり、これらのセグメントのすべてではありませんん。

ゲーム機を不要にするもう一つの大きな変化の要因はモバイルの台頭です。モバイルゲームは約32億人ものスマートフォン・ユーザーにゲーム体験を提供できるため、ユーザーの支出額は他のすべての形態のゲームの合計額を上回っています5

サードパーティのコントローラー、VR(仮想現実)ヘッドセット、バッテリーパックなどの新しい周辺機器によって、スマートフォンでゲームをより簡単に楽しめるようになっています。また、5Gの進歩により、外出先で高品質なゲーム体験を提供するための基盤がさらに整備されるでしょう。

ゲームソフトの販売会社と制作会社が680億ドルのモバイルゲーム市場における収益化の機会を模索する中、人気の高いゲームタイトルが相次いでモバイルへ移行しており、モバイルゲームは「品質面で妥協している」との汚名を返上しようとしています。Call of Duty(コール・オブ・デューティ)とMario Kart Tour(マリオカート・ツアー)はモバイルで利用可能な主要なゲームタイトルのごく一部にすぎません。さらに、Candy Crush(キャンディ・クラッシュ)のような長年にわたるモバイル向けのベストセラーは、広告収入とF2P(フリー・トゥ・プレイ:コンテンツの重要な部分へのアクセスを無料でプレイヤーに提供すること)の仕組みを通じたゲーム内課金によって強固な収益を経常的に生み出せることを示しています。

■世界のスマートフォンのアクティブ・ユーザー数

結論

ゲーム機のスーパーサイクルが起きるのはほぼ6年に1度の頻度であり、今年発売されるPlayStation5およびXboxシリーズXのリリースは、新しいテクノロジーを活用するハードウェアメーカーやゲームソフト制作会社にとって短期的ながらも大きな追い風となると予想されます。一方、消費者がクロスプラットフォーム(異なるプラットフォームで同じ仕様のソフトウェアを動作させること)を好み、クラウドテクノロジーの登場によって外出先での利用が高まっていることを背景に、ゲームは進化し続けています。そのため、ゲームは近い将来にクラウドへ移行し、どこでどのデバイスを使用してもアクセスできるようになり、ひいては新しいビジネスモデルとゲームプレイを実現するでしょう。

関連するETF(上場投資信託)

グローバルX ヒーローズ(ゲーム&eスポーツ)ETF(ティッカー:HERO)の主な投資先は、ゲームソフトを制作または販売する企業、ゲームまたはeスポーツコンテンツのストリーミング配信および流通を促進する企業、競争力のあるeスポーツリーグに参加するチームを所有・運営する企業、または拡張現実(AR)および仮想現実(VR)を含むゲームソフトおよびeスポーツに使用されるハードウェアを製造する企業です。現在の保有銘柄を表示するには上記のファンド名をクリックしてください。保有銘柄は変更される場合があります。現在および将来の株式保有はリスクを伴います。

脚注

  1. Newzoo、「Newzooが世界のゲーム市場予測を1,488億ドルに修正:ゲーム機支出の伸びの鈍化は予想より早く始まる」、2019年11月19日。
  2. 同上。
  3. 同上。
  4. WholesGame、「2013年に最も売れたゲームソフト上位10タイトル」、2014年2月28日。注:Call of Duty:Ghostsの販売数は、Xbox 360、PS3、PS4、Xbox One、およびPC向けのものを含めて1,271万本に達しました。
  5. Newzoo、「Newzooが注目する2020年のモバイルトレンド」、2019年12月20日。 2019.
  6. Newzoo、(注1と同じ)。